2024年2月10日〜12日の奥秩父山行の際に、気象予測の支援をいただいたjskyさんから、貴重で有益な詳細解説コメントをいただきましたので、
シェアさせていただきます。
jskyさんは世田谷山友会の山行サポートチーム運営にも携わっている大変心強い存在です。いつの日か、これわかるようになりたい。。
高層天気図を用いた2024年2月11日の奥秩父山岳地域の天候予想
by 気象予報士 jskyさん
今回の事例は、地上天気図だけでは判断が難しく高層天気図を見ることで判断できる気象現象の一つで、高層天気図の有用性がわかります。
一方高層天気図は描かれているものが地上天気図とはだいぶ異なっているのである程度見慣れていないと理解が難しいでしょう。
しかしここで高層天気図や気象学の説明をするわけにもいかないので、ここでは今回の現象の理解に必要な最低限の事柄に絞って説明を交えながらのコメントをしたいと思います。
まず地上天気図を見ると、11日朝9時には弱い冬型の気圧配置(西高東低)になっています(図1)。
日本の東海上には低気圧がいくつかありますが、これらは基本的には日本から離れていくので気にしなくて良いです。
ちょっと気になるのは朝鮮半島のすぐ東にある1020hPaの低気圧ですがこれも前線もなく「低圧部」と言って良いくらいのものであまり気にすることはないと思います。
(事実この後の天気図(図は省略)を見るとその日の夜9時に1016hPaまで気圧が下降しましたが位置は日本海上でその後は消滅しています)。
そして翌12日朝9時になると、日本列島は段々と高気圧に覆われていることがわかります。
もしこの図1「だけ」の情報から今後の天気を予想すると「多少の雨・雪はあるかもしれないがだろうがそれほど荒れた天気にはならない」となると思います。
それでは次に同時刻の5000m付近の天気図を見てみます。(図2)
まず天気図に書かれていることの説明。
実線(太・細の二つ)で書かれているのが「等高度線」というもので、60mごとに引かれています。
これの説明を始めると大変なのでここでは簡単に「高度が低い(=つまり数字が小さい)ところは気圧が低い」と理解してください。
すると南から北に向かって段々と(60mずつ)高度が下がって(=気圧が低くなって)いることが分かります。
そして顕著なのが北から南(九州付近)に向かって「垂れ下がる」ように低圧部が張り出していることです。
このようなところを「気圧の谷(トラフ)」と言います。
次に破線は「等温線」(6℃ごと)で,等高度線同様に南が高温で北が低温です。
これを見ると、本州付近はマイナス36度とマイナス30度の間大体マイナス33度くらいの寒気に覆われていることが分かります。
等温線も気圧の等高度線と同様に北から南に向かって垂れ下がっており、これを「サーマルトラフ」と言ったりします。
矢羽は風向と風速を示しまた要所要所の気温と湿数(湿り気)の値が打ってありますがここでは説明を省きます。
ここで大事なのは「上空に気圧の谷とそれに伴った寒気がやってきている」ということです。
気圧の谷も上空寒気も共に悪天(対流現象)の要因になります。
上空寒気が大気の対流現象の原因になることは、日常お湯を沸かす(下が熱く上が冷たい)時の様子を想像すれば理解できると思います。
気圧の谷(正確には谷の東側)が対流の原因になることの説明はとても難しくなるので省きます(あまり正確ではないですが、大気の渦が強化されることで上昇流が起こるのです)。
今後の天気(2/11夜以降)ですが上空のトラフおよびサーマルトラフの動向がキーになります。
そこで11日の夜9時の高層を見てみると(図3)
両トラフはさらに深まって九州方面から本州の方に東進しており「天気は荒れる」見込みです。
山岳では気温も低く降水は雪で風も強いと予想できます。
なお、12日朝9時になるとこれらのトラフはさらに東進して徐々に天気は回復します。
まだ色々言い足りないことはあるのですが,あまり情報量が多いと消化不良になると思いますのでこれくらいにして,最後に高層天気図の入手先を挙げておきます。https://www.hbc.co.jp/weather/pro-weather.html
<備考>
1)このコメントは、現象説明のために予想天気図ではなく解析天気図をもとに作成しましたが、予想天気図にも高層(予想)天気図がありトラフの接近を知ることができます。
2)ここで示した天気図は全て気象庁が作成したものですが,分かりやすくするために若干の色付けを行っています。
(文責:jsky)
jskyさん、弟子にしてください。
って思っている人は自分だけじゃないはず。
fullさん,「弟子」だなんてとんでもない.でもこれからも私の(浅薄なものであっても)知識を,皆さんに活用していただければ嬉しいです.
ありがとうございます。
高層天気図はたまに見てみることがあるのですが、図が混みすぎていて日本がどこにあるか見つけるのが大変(^-^;
オマケでシェア、気象がらみで教わったワンポイントアドバイス:等圧線の間隔が東京-名古屋間でひとつ以下だったら、風速10-15mの可能性アリ、登山を見合わせたほうが良いそうです。
imarinさん,高層は確かに地図との照合がやりにくいですね!風の予知についての貴重な情報ありがとうございました!
風速の定義について,参考までに;
https://www.jma-net.go.jp/matsuyama/publication/tenko/tenko202010.pdf
ここの”【気象用語】 「風速とは”のところです.風は強くなったり弱くなったりを繰り返すことは日常の経験でお分かりかと思います.値は平均値であることと最大瞬間風速(これも平均値)にご注意.ここの記事は地上(下界)のことですから,山では言わずもがな,地上は地面との摩擦などで風は弱くなりますが,上空ではそれが無くより強い風が吹走してそのまま山に当たります(上空に向かって風がだんだんと強くなるのは,摩擦がなくなるのだけが原因ではなくて「温度風の関係」といって温帯特有の気温傾度帯(そう,前線です!)による風の強化も大きなファクターでして,その極大が9000m〜10000mくらいのところを吹いている時速200Km以上にもなる『ジェット気流(偏西風)』です.そのもっと上空が風の弱い成層圏ーだから旅客機は成層圏を飛ぶのです).