奥秩父ラッセル彷徨。北奥千丈岳への道

写真上:2日目序盤。いざ北奥千丈岳へ。

いや彷徨はしてないんですけど、遠かった

DAY1

南岸低気圧が引き込んだ寒気で東京にも雪が降った2024年2月第2週、雪山テント泊山行の記録です。
メンバーは、奥秩父、南アルプス深南部を自分の庭のようにくまなく歩いているgakuさん(CL)、厳冬期アルパインから沢、クライミングの経験豊富なfullさん、OLD見習いハイカー・筆者の3人。
当初は南アルプス南部、黒河内岳(笹山:2717.6m)のダイレクト尾根ピストンに行く計画だったが、この週の大雪による新雪を考慮して奥秩父の最高峰、北奥千丈岳(2601m)をめざすロングルートに変更となった。
「傾斜はゆるくなりますけど距離はたっぷりありますよ」(gakuさん)

計画

1日目

徳和〜大ダオ入口〜松霞新道分岐〜大ダオ〜ゴトメキ〜白檜平〜奥千丈岳(幕)

2日目

奥千丈岳〜北奥千丈岳〜奥千丈岳〜白檜平〜ゴトメキ〜大ダオ〜松霞新道分岐〜大ダオ入口〜徳和

予備日 1日
距離:25.3km
高低差:2003m

(大弛峠からだと往復2時間?それは言ってはいけません。)

南岸低気圧のおかげで雪はそこそこある。
コース初盤は気温が高めで南面ということもあり湿雪が重い。

徒涉箇所、雪注意

徳和からの林道がおわり沢筋から高度をあげていくが、途中に徒涉ポイントが何度もあらわれる。
積雪豊富で、フットホールドが見えない。
ポールを使って手探り”座頭市スタイル”で通過。

誰もいない。もちろんトレースなし

雪が増え、斜度も増したのでチェーンスパイク装着。
すぐに足裏は雪団子になり重くなる。
夏みかんくらいの大きさになるたび、ポールで叩いたり、岩や木で落としたり。
もちろん先行者はおらず、トレースは鹿や何者かの足跡だけ。
gakuさんは、延々とラッセルをいくら続けても行けてしまう強靭さ。

トレースしていると、あの曲が頭の中でリフレインするよ

おかげで、トレース3番手の楽ちんなこと。
ゆったりリズムで登っていると五輪真弓の「煙草のけむり」が頭の中でループしてしまう。

楽曲が頭の中にこびりついて繰り返されてしまう状態のことを
「イヤーワーム(ear worm)」というらしい。
研究によるとウォーキングやジョギング、歯磨きなど単純、周期的な運動中に起きやすいのだと。

煙草のけむりの中に
かくれて見えない
あなたはどんな顔で
私を見てるの?

五輪真弓 作詞・作曲「煙草のけむり」

※ご注意:動画再生すると音が出ます。

「トップ交代っ!」
はっ!かしこまり!

ラッセルのローテション交代。
トップをやる番になったら、もう「煙草のけむり」は鳴らなくなってしまう。

大ダオを登りつめて

無雪期は一面の笹原斜面であろう大ダオを登りつめると、本ルート最良の眺望が開けている。

幕営

しばらく進んで平坦地で幕営とする。
ゴトメキ(御止木)までは届かなかった。

会所有テント

モンベル ステラリッジ4 (旧型スリーブ式)スノーフライ装着

水づくり、鍋づくり、あー忙し、楽し

水づくり。
雪山でいいことの一つは雪を溶かせば水を調達できることだ。
丈夫な大きめのビニール袋に、水づくり用の雪をどっさり入れてテント入口に用意。
「雪はほとんど空気でできているから、そのまま熱しても溶けにくい。呼び水を入れて溶かすこと」
fullさんの話しは理系の素養がにじんでいてわかりやすい。
溶けかかった雪をお箸でかきまぜると、さらに早く溶けて水が作れる。
水づくりならビリー缶が熱効率がよいようだ。

1日目 夕食

豚汁キムチ鍋風(「エバラ・プチッと鍋 キムチ味」)
・豚肉小間切れ
・にんにく、ニラ、油揚げ、ブナしめじ、長ネギ、にんじん
・各自アルファ米

・日本酒、焼酎、バーボン・・・。fullさんにおかわりおねだり。ごっつあんでした。

この夜は穏やかで快眠快眠。

DAY2

雪、さらに増えてますね

まずは腹ごしらえ

2日目 朝食

棒ラーメン(「マルタイ・豚骨スープ」)
・サトウの切り餅(鍋用ミニ)
・ニラ、ポークウインナー

ゴトメキが遠い。しらび平が遠い


昨日よりも雪は増えていて、進むほど深くなる。
膝から腰までのラッセルを強いられて移動速度はあがらない。
無雪期ならなんでもないルート。

「北奥はやめて、奥千丈岳までね」


夢中になって突き進むのだが、気がつくともう昼になっている。
北奥千丈岳はあきらめ、奥千丈岳を目指すのだが。

ちなみに低温でスマホは落ちてしまい、このあたりからは写真が撮れていない。

「行くな」と巨大倒木は言う

これって、もうこれ以上は先に行くな、ってことだよね?

もくもくと進んで、奥千丈岳まで標高にしてあと30mほど、あとすぐの地点に来ているのだが、倒木が前方、左右をふさぎ、大きく迂回、障害物の乗り越えを繰り返さなければ、前進できそうにない。
もうテントに引き返すのも時間的にはギリギリだ。
ここで引き返すことで意見一致。
その後、間もなく
予備日利用を決定。停滞
です。
(写真はイメージ。実際の反転ポイントでは、巨大な倒木に三方を阻まれた)

地吹雪の中、テントに撤退

引き返す道はトレースがあるので歩きやすいが、日没がせまり、風が強くなっていく。
地面からのスノーシャワー、体温を奪う風。
「ハードシェルを着たほうがいい」とfullさん。
「もう少しこのままで」と応答するが、
ん?やっぱり寒いね。とハードシェルを重ね着する。
fullさん曰く「低体温症になるのはあっという間で、思考・判断力が低下する」
油断ならねえ。

かろうじて日没前にテントに戻ることができた。
中はとても暖かく感じる。

伏兵、上空の寒気団

「きっと快晴で楽しい山行になるでしょう」
送り出してくれた知人とのやりとりが思い浮かぶ。

確かに遠方に見える里は明るく夕陽に照らされ、何事もないようだ。

しかしここは荒れ模様。
夕方からの寒気と風がもっとも激しかったのは午前4時から6時ごろまでだっただろうか。強風がテントを叩いて音をたて、断続的なスノーシャワーが外では吹き荒れていた。

「北アルプスだとこれが何日も続いたりするんだよね」

ぼそっと fullさんが呟いた。

2日目 夕食

予備日突入につき食料はありあわせ。

高野豆腐とフォーのキムチ味スープ
・高野豆腐
・フォー(米粉麺・タイ産)
・各自アルファ米

・前夜残り

gakuさんの見立てでは、9時ごろに低気圧が千葉県東方沖に抜けるので、
7時ごろには落ち着くのではないかと。
とりあえずシュラフの中でじっと待つしかない。
例の歌がまた頭の中で鳴る。

あなたは煙草をくわえ そして云った
「火をかしてください ぼくの暗い心に
火を灯してください あなたの赤いマッチで」
(作詞 作曲:五輪真弓「煙草のけむり」)

この時、おきていたこと。

(気象予報士jskyさんによる精密予測)

幸い携帯が通話可能だったので、gakuさんが山友会会長maruさんに予備日利用の件を連絡。
その際、天気予報の助言を希望したところ、会友で気象予報士の資格を持つjskyさんが高層天気図をもとに詳細な分析をおこない、知らせてくれた。
「今後の天気ですが上空のトラフおよびサーマルトラフの動向がキーになります。
そこで11日の夜9時の高層を見てみると、両トラフはさらに深まって九州方面から本州の方に東進しており
『天気は荒れる』見込みです。山岳では気温も低く降水は雪で、風も強いと予想できます。
なお、12日朝9時になるとこれらのトラフはさらに東進して徐々に天気は回復します」
(jskyさん)
まるで現地で一緒に見ているかのような分析だ。
高層天気図を理解できて、ここまで予測できるなんてすばらしい。

jskyさんの詳細コメントをこちらでご覧になれます。>>付録ページ

DAY3

撤収開始

寒風に追い立てられるようにテント撤収、下山開始。
手足の先が凍える。バラクラバ、ハードシェル装着。
gakuさんのハクキンカイロで、靴紐操作で感覚を失った指が復活。

そして安堵の白銀世界へ

大ダオ南側の斜面まで復路をたどると、つい先ほどまでの容赦ない寒風がウソのようにやみ、あたりは穏やかで温かいスノーハイク日和の世界にかわっている。
例の徒涉を慎重にわたり、急斜面の登り返しとトラバースをやりすごすと、もうあとは快適な青空と白銀の樹林帯。

雪がキラキラ反射して美しい。
締まった雪の斜面をザクザクとつぼ足で降りていく。

ここまで来ると、同じ「煙草のけむり」でもアップテンポなバージョンがあう。
動画は夜のヒットスタジオ風のライブ。

烟草のけむりは
いつか消えてしまって
あなたもいつのまにか
いなくなっていた
何故だかわからない
あれから 口ぐせになってしまった
「火をかしてください ぼくの暗い心に
火を灯してください あなたの赤いマッチで」
(作詞 作曲:五輪真弓「煙草のけむり」)

面白かったぜい

趣き深い奥秩父の樹林帯。
猫の目のようにめまぐるしく状況が変わる雪山。
大いに楽しませてもらいました。

企画してくれたgakuさん、たくさんの学び直しをさせてくれたfullさんスクール、
後方から支援してくださった会長maruさん、気象予報士のjskyさん、ありがとうございました。

(おまけ)秘密の名湯に飾られている熊の剥製。


発見者から非公開を厳命されている「秘密の名湯」
入浴料420円。なんだか帰ってからも3日間くらい調子がよかった気がする。

bobcat:記

9 thoughts on “奥秩父ラッセル彷徨。北奥千丈岳への道

  1. full says:

    bobcatさん、ブログアップありがとうございます。コロナのこともあり、2年ぶりの冬山でしたが、充実の3日間でした。
    やはり、どこへ行くかより、誰と行くかですね。

  2. bobcat says:

    fullさんコメントありがとうございます!
    写真が二人ともなんか山屋らしくてカッコよくないですか〜。秘されたる名湯、また行きましょう〜!

  3. gaku says:

    ブログを作ってもらい、ありがとうございます。趣のあるルートでしたが時間配分が甘かったせいで少し大変な思いもしてしまいましたね。
    この経験も生かしてまた企画していきますので、ぜひよろしくお願いします👌

  4. bobcat says:

    gakuさんコメントありがとうございます。いえgakuさんならではのマイナールートこそが最高ですよ!

  5. ao says:

    画用紙の様な真っ白な雪面に自分達だけのトレースをつけて行く、何とロマンティックな事だと人は言う!
    実際は~?そう地獄です~笑
    HP作成者のブログ作成は、流石に一味違うクオリティーですね。

  6. bobcat says:

    aoさんコメントありがとうございます。雪山の巨匠aoさんには小生の一万倍もの雪山シーンがよぎるのでしょうね。気ままに書きましたがご笑覧いただけたことでしたらうれしく思います〜。

  7. maru says:

    3人で、あの雪踏んで、gakuさんザックあれが噂の「100L」か、外張りテント重いですよね、で倒木ですか、そりゃあ時間かかりますね。更に風雪もあった中、予備日まで使って戻ってきたトリオのチ-ムワ-クが素晴らしい。予定地まで行けないなんて雪山では普通のこと、いろんなこと経験できたんでしょう、「高層天気図」情報得られたのは圧巻、うらやましいほどに。jskyさんありがとうございました。“イヤ-ワーム”(ディラン現象とも)と言うんですね、「煙草の煙」はシブイ。高層天気図(等高線)と地上天気図(等圧線)の関係の理解は(自分では)アヤシイ。低温でスマホが“落ちる”はコワイ、「秘密の名湯/420円」知りたい。

  8. bobcat says:

    maruさんコメントありがとうございます。思わず○○○○温泉の名をここで教えたくなり、ハッと思いとどまりますが、山梨方面に行った時にはご案内しますよ〜。

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